ナクソス・ジャパンのコラム「水谷彰良の 聴くサリエーリ」(全12回) へのリンク、2019年以降のサリエーリ新譜紹介、『サリエーリ 生涯と作品』のディスコグラフィとその追補を掲載します。
更新記録
2021年8月18日──「サリエーリの新譜紹介」の欄に2点のCDを追加
2022年12月03日──「サリエーリの新譜紹介」の欄に3点のCDを追加
クラシック音楽レーベルNAXOSの日本法人、ナクソス・ジャパンのサイトに2019年4月から2020年3月まで全12回連載したコラム「水谷彰良の 聴くサリエーリ」へのリンクです。
ナクソス・ジャパン掲載のコラムで取り上げたCD。以下、クリックしてコラムをお読みください。
第6回 『オペラ・アリア集』 (1)
第7回 『オペラ・アリア集』 (2)
サリエーリの師ガスマンも含めた新譜の紹介です(水谷彰良・筆。2019年以降に発売されたディスク)
モーツァルト&サリエーリ《レクイエム》 Mozart・Salieri / REQUIEM
サリエーリ《レクイエム》ハ短調、モーツァルト《レクイエム》ニ短調)
エルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリチュエル ヴァレンティーナ・ナフォルニータ(S), アンブロワジーヌ・ブレ(A), ロビン・トリッチュラー(T), アンドレアス・ヴォルフ(B)
録音:2021年11月ヴェルサイユ Château de Versailles Spectacles CVS078 国内流通仕様NYCX-10357](CD)
タイトルとは反対に、サリエーリ、モーツァルトの順にカップリング。これはピリオド古楽器オーケストラを用いた二つ目の録音で、1996年に発売された最初のCD──1995年11月ブレッサノーネとメラーノでのライヴ音源──は古楽器を用い、作品の時代順にモーツァルト~サリエーリの順に収めている(アンドレアス・クレーパー指揮。Vlček Music SY0008[註])。
古楽器での演奏は現代楽器の演奏(ローレンス・フォスター指揮。PentaTone PTS 5186359)とは速度が異なり、演奏時間もフォスター盤38分58秒に対して今回発売されたエルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリチュエルの新録音は30分11秒で、随所に「これは速すぎるゾ!」と驚かされる。とりわけ第2曲「怒りの日」と第3曲「不思議なラッパの音」のテンポが速く、エキセントリックに感じられる。その後も流れ良く進むけれど、もう少し溜めや余韻が欲しいというのが個人的感想である。合唱は透明感があり、金管楽器や打楽器も歯切れが良い。ヴェルサイユ王室礼拝堂の残響の多さも、こうした作品の鑑賞にプラスに働いている。
[註]理由は不明だが、クレーパー盤に終曲「リベラ・メ」は収録されない。
サリエーリ《レクイエム》の作品解説はこちらをご覧ください→ 第12回 『宗教音楽の作曲家サリエーリ』
コンスタンティン・クリンメル/魔法オペラ(モーツァルト、ハイドン、サリエーリ)
Konstantin Krimmel / Zauberoper (Mozart, Haydn, Salieri)
ベネディクト・シャックほか《賢者の石、または魔法の島》、モーツァルト《魔笛》、ヴィンター《魔笛 続編》、ヴラニツキー《オベロン、妖精たちの王》、サリエーリ《トロフォーニオの洞窟》、ハイドン《オルフェオとエウリディーチェ》《遍歴騎士オルランド》、グルック《オルフェオとエウリディーチェ》より序曲とアリア。全17曲
コンスタンティン・クリンメル(Br), リュディガー・ロッター指揮ホーフカペレ・ミュンヒェン
録音:2021年9-10月エアランゲン Alpha ALPHA892 (CD)
1993年ウルム生まれのドイツ人コンスタンティン・クリンメルはシュトゥットガルト音楽大学で学び、伸びやかな声と柔軟な歌唱で即座に才能を認められたバリトン。3枚目のソロアルバムとなる当盤は魔法オペラにテーマを絞り、別記8つの歌劇から17曲を収録。モーツァルトを含む複数作曲家による共作ジングシュピール《賢者の石、または魔法の島》の4曲から「これは面白い!」と興味をそそられる。ヴラニツキー《オベロン、妖精たちの王》も出色で、夢に見た光景を歌う2つ目のアリアが猫の鳴き声もあって愉快だ。
サリエーリは《トロフォーニオの洞窟》の序曲とアリア2曲のみだが、18世紀末のヴィーン歌劇に関する発見があり、《賢者の石》、サリエーリとハイドンの序曲におけるリュディガー・ロッター指揮ホーフカペレ・ミュンヘンのエネルギッシュな演奏も素晴らしい。 (『レコード芸術』音楽之友社、2022年12月号の拙稿をアレンジ)
アーダム・プラチェトカ/モリエーリ(モーツァルトとサリエーリのオペラ・アリア集)
Adam Plachetka / MOLIERI
モーツァルト《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《偽の女庭師》《コジ・ファン・トゥッテ》、サリエーリ《ファルスタッフ》《やきもち焼きの学校》《オルムスの王アクスール》《トロフォーニオの洞窟》よりアリアと序曲。全15曲
アーダム・プラチェトカ(B-Br), ロマン・ヴァーレク指揮チェコ・アンサンブル・バロック
録音:2021年4-5月プラハ PentaTone PTC 5187022 (CD)
1985年プラハ生まれのアーダム・プラチェットは同地の音楽院で学び、2005年プラハ国立劇場にデビューしたバス=バリトンで、10年からウィーン国立歌劇場のメンバーとして活躍する。当盤は映画『アマデウス』をヒントにモーツァルトとサリエーリの名を合成して「MOLIERI」と題し、アリアを交互に収録する(モーツァルトは8曲、サリエーリは7曲。序曲各1曲含む)。
第1曲「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」にカデンツァを挿入し、2曲目「キューピッドの帝国」でファルセットを交える。2人の作曲家の音楽は遜色がなく、《やきもち焼きの学校》の前奏冒頭が「もう飛ぶまいぞ」を先取りすることに気づかされる。プラチェットはメリハリのある歌唱が好ましいけれど、一本調子にも感じられ、ロマン・ヴァーレク指揮のピリオド楽器オーケストラは通奏低音のチェンバロ使用に疑問の余地がある。
(『レコード芸術』音楽之友社、2022年12月号の拙稿をアレンジ)
サリエーリ:歌劇《アルミーダ Armida》全曲
クリストフ・ルセ指揮レ・タラン・リリク, ナミュール室内合唱団 レネケ・ルイテン(S/アルミーダ), フローリー・ヴァリケット(S/リナルド), テレーザ・イエルヴォリーノ(Ms/イズメーネ), アシュリー・リッチズ(Br/ウバルド)
録音:2020年7月パリ Aparte AP244 (CD2枚組)
サリエーリの歌劇復興が加速するなか、知られざる名作の世界初録音が行われた。1771年6月2日ウィーンのブルク劇場初演のオペラ・セリア《アルミーダ》である。台本作家マルコ・コルテッリーニはリュリ《アルミード》のキノー台本を基に、登場人物をアルミーダとその親友イズメーネ、キリスト教徒の騎士リナルドとウバルドの4人に集約する。舞台もアルミーダの島に限定し、第1幕はリナルドを救出しに来たウバルドが魔法の杖で悪魔を追い払い、魅惑の園の第2幕でアルミーダと愛の生活を送るリナルドにウバルドが魔法の盾で自分の使命を思い出させる。第3幕は魔法の解けたリナルドが島を去るのを止めようとして叶わぬアルミーダが島の破壊を命じ、翼のはえた竜の引く戦車に乗り込むまでを描く。
20歳のサリエーリは作劇と音楽の双方でグルックの改革オペラ様式を完全に習得し、序曲をパントマイムにして霧の中からウバルドが姿を現して怪物と戦い、これを倒して劇の冒頭に繋げている。ドラマと音楽の一体化、合唱を多用する手法はグルック《アルチェステ》の直接的影響と言える。その一方、第1幕の劇的な合唱と朗誦[17][18]、ウバルドのアリア[19]、第2幕リナルドのコロラトゥーラ・アリア[37]と第3幕の三重唱[50]にサリエーリの個性が輝きを放つ。
フランス・オペラ三部作の経験を踏まえて本作に取り組んだ指揮者クリストフ・ルセが、手兵レ・タラン・リリクと共に圧倒的な名演を繰り広げる。歌手4人も最高の布陣。アルミーダ役レネケ・ルイテンはヒロインの強さと弱さ、感情の襞を巧みに表現し、第3幕末尾の激唱も特筆に値する[53][54]。カストラートのために書かれたリナルドは女性ソプラノのフローリー・ヴァリケットが優美に歌い、オーボエ独奏を伴うアリアも秀逸[26]。イズメーネ役テレーザ・イエルヴォリーノとウバルド役アシュリー・リッチズも力強く凛とした声と歌唱が光る。
若きサリエーリが突出した才能に恵まれ、グルックの後継者にふさわしい作曲家だったことの証明となる歴史的な全曲録音の出現を心から慶賀したい。 (『レコード芸術』音楽之友社、2021年4月号の拙稿より)
サリエーリとベートーヴェンの対話 Salieri & Beethoven in Dialogue
サリエーリ《ハプスブルク》《ファルマクーザのチェーザレ》《無言の神託》序曲, 《再建されたイェルサレム》フィナーレ, ベートーヴェン《ヴェスタの火》導入曲, 《三重唱曲》作品116
ティモ・ヨウコ・ヘルマン指揮ハイデルベルクso. ディアナ・トムシェ(S), ジョシュア・ホワイトナー(T), カイ・プロイスカー(B)他
録音:2020年3月ドッセンハイム Hänssler Classic HC20067 CD)
師弟関係にあったウィーン宮廷楽長サリエーリとベートーヴェンが1800~05年に作曲した6曲を、音楽の対話として交互に収録。《ハプスブルク》は皇帝フランツ2世の命で1805年に作曲されたカンタータ。その序曲[1]はトランペットと打楽器の活躍する壮麗な音楽により帝国の偉容を称える。《無言の神託》(1802) は皇帝の弟にあたるトスカーナ大公フェルディナント3世の息子の誕生を祝う寓意的カンタータ。その序曲[5]はオーボエ独奏を含む思わせぶりな序奏と勢いのあるアレグロの二部構成で、派手な打楽器の用法はサリエーリならでは。[6]はジンガレッリの聖劇《再建されたイェルサレム》第1幕の差し替えフィナーレとして1805年に作曲された、暗い洞窟の中で恐怖をおぼえるシャブリ、ネヘミア、アルタリーチェの3人を中心に展開する一場。以上3曲が世界初録音である。《ファルマクーザのチェーザレ》は1800年初演の英雄喜歌劇。「海の嵐」と題された序曲[3]はミラノ・スカラ座こけら落としの歌劇《見出されたエウローパ》(1778) 序曲の転用で、劇の幕開けと結びつく疾風怒濤の音楽がベートーヴェンの先取りに感じられる。
これに対し、ベートーヴェンの作品は未完に終わったシカネーダー台本の歌劇《ヴェスタの火》(1803) の導入曲と三重唱曲《おののけ、背徳者よ》(1802/03) を収録([2][4])。どちらもサリエーリの下でイタリア語テキストへの付曲を学んだ成果が反映され、三重唱曲には《フィデリオ》に連なる音楽言語が明瞭に聴き取れる。直接的影響は乏しくとも、師弟関係の中で生み出された音楽として取り上げる意義は大いにあると思う。
指揮者ティモ・ヨウコ・ヘルマンはサリエーリ研究で学位を取り、カンタータや器楽曲の世界初録音を積極的に行って復興に寄与する。当盤は同じレーベルの「サリエーリ:私的な作品集」に続く収穫で、ハイデルベルク交響楽団とソプラノのディアナ・トムシェら優れた歌手を得て、迫力とメリハリに富む演奏を繰り広げる。個々の作品の特色もヘルマン筆のブックレット解説に詳述されている。
(『レコード芸術』音楽之友社、2021年3月号の拙稿より)
サリエーリ:歌劇《ヴェネツィアの市 La fiera di Venezia》全曲
ヴェルナー・エールハルト指揮 ラルテ・デル・モンド, 同合唱団 フランチェスカ・ロンバルディ・マッズッリ (S/ファルシレーナ), クリスティアン・アダム (T/オストロゴート), ディリアラ・イドリソヴァ (S/カッロアンドラ), エミリアーノ・ダグアンノ (T/ラゾイオ), フリオ・ザナージ (Br/グリファーニョ), ジョルジョ・カオドゥーロ (Br/ベルフスト), ナタリア・ルビス (S/クリスタッリーナ)
録音:2018年10-11月レーファークーゼン DHM 19075964562 (CD2枚組)
サリエーリが21歳で作曲し、1772年1月29日にウィーンで初演した全3幕の喜歌劇《ヴェネツィアの市》の世界初録音。台本作家G.G.ボッケリーニによる舞台は大きな市で賑わうヴェネツィア。オストロゴート公爵は庶民の娘ファルシレーナに言い寄るが、ベルフストと相思相愛の彼女は公爵をその気にさせ、金を巻き上げようと企む。だが婚約者カッロアンドラ女侯爵の到着を知った公爵がファルシレーナの存在を隠そうとするので、彼女は公爵を懲らしめるべく仮面舞踏会で女侯爵と入れ替わり、婚約者の浮気現場を押さえさせるという喜劇。ファルシレーナは劇中でオペラ歌手、フランス人商人の妻、ドイツの男爵夫人に変装して登場し、台詞と歌にフランス語とドイツ語も交えてすこぶる楽しい作品に仕上がっている。
これは昨年シュヴェツィンゲン音楽祭でセミステージの蘇演を行ったメンバーによるスタジオ録音。エールハルト指揮ラルテ・デル・モンドは2015年の《やきもち焼きの学校》世界初録音でサリエーリ復興に貢献し、今回もその流れを汲んで遊び心満点の演奏を繰り広げる。とはいえフォルテピアノ奏者マッシミリアーノ・トーニのレチタティーヴォ・セッコ伴奏がジャズ風のピアニズムを多用し、《ラ・トラヴィアータ》《ラ・マルセイエーズ》《エリーゼのために》の引用に加え、1分30秒に及ぶ独奏(CD2-[1])を挿入するなど明らかにやりすぎだ。
歌手は古楽系の新進気鋭を揃え、喜劇的な語り口も素晴らしい。中でもファルシレーナ役のソプラノ、フランチェスカ・ロンバルディ・マッズッリが傑出し、第1幕のアリアとカヴァティーナ(CD1-[19][29])、第2幕のアリアに卓抜な表現が光る。カッロアンドラ役のディリアラ・イドリソヴァは二つの技巧的アリアが見事(CD2-[7][20])。男性歌手はオストロゴート役クリスティアン・アダムとベルフスト役カオドゥーロが秀逸。第1幕フィナーレのアンサンブルも愉快で音楽に勢いがある。18世紀オペラの愛好家はこれを聴き、創意と管弦楽法において同時代のナポリ楽派を凌ぐサリエーリの才能を「発見」してほしい。
(『レコード芸術』音楽之友社、2019年11月号の拙稿を増補)
サリエーリ:歌劇《タラールTarare》全曲
クリストフ・ルセ指揮 レ・タラン・リリク, ヴェルサイユ・バロック音楽センター合唱団 シリル・デュボワ (T/タラール), カリーヌ・デエ (S/アスタジー), ジャン=セバスティアン・ブ (Br/アタール), ユディト・ファン・ワンロイ (S/自然&スピネット), エンゲラン・ド・イス (T/カルピジー), タシス・クリストヤンニス (Br/アルテネ&火の精), ジェローム・ブティリエ (Br/ユルソン&奴隷&司祭), フィリップ=ニコラ・マルタン (Br/アルタモール&農民) 他
録音:2018年11月ピュトー&パリ Aparte AP208 (CD3枚組)
ボーマルシェ唯一の書き下ろしオペラ台本を用いる《タラール》は、そのプロローグで神々が一人を皇帝、もう一人を兵士とすべく2人の人間を創造する。全5幕の舞台はオルムスの皇帝アタールの宮殿。残忍な皇帝は勇敢な武将タラールの人気に嫉妬し、大祭司の息子アルタモールにタラールの家を焼き払わせ、誘拐した妻アスタジーを後宮に幽閉する。妻を取り戻そうとするタラールは、イタリア人の宦官奴隷カルピジーの協力を得て口のきけない黒人に変装し、妻と再会して捕らえられ、死刑を言い渡される。だが兵士の反乱で救出され、民意を失った皇帝が自殺すると、民衆の求めでタラールが戴冠する。フィナーレに示される「なんと印象的で不幸な見せしめ。兵士が王座に就き、暴君が死ぬとは」「人間の価値は性格で決まる」との教訓は、大革命の勃発、ルイ16世の処刑とナポレオンの出現を予見するかのようだ。
1787年6月8日パリの王立音楽アカデミー劇場(オペラ座)初演で大成功を収めたこの作品は、トラジェディ・リリックにイタリア・オペラの様式を高次に統合した画期的歌劇。グルックに学んだサリエーリは疾風怒濤の序曲を劇の導入部と一体化し、シンバルや大太鼓を用いるトルコ風音楽を第二の序曲と合唱曲(CD1-9&10)他に用いた。レシタティフで劇を進めながらも曲趣に富むエール、重唱、合唱を多用し、アスタジーに悲劇的演技のドラマティック・ソプラノ、タラールに柔らかな声のテノールを想定、皇帝アタールに喜劇的な要素を加味している。滑稽役のカルピジーが舟唄風のクプレ「私はフェッラーラで生まれ」を歌い(CD2-25)、オペラ・ブッファさながらの愉快な男声三重唱(CD2-28)と葬送行進曲の合唱曲もある(CD3-11)。その斬新さに、「《タラール》はドラマと歌の怪物。誰もこのようなものをかつて観たことがない」と当時の観客が戸惑っても不思議ではない。その意味でも《タラール》はイタリア様式でフランス・オペラを刷新し、19世紀に道を拓いた傑作である。
1988年シュヴェツィンゲン音楽祭蘇演のDVDがかつて日本語字幕付きで発売されたけれど、全曲CDはこれが初。指揮者ルセは終始快速テンポで牽引し、手兵レ・タラン・リリクもピリオド楽器の特性を活かして色彩的かつ変化に富む演奏で劇を盛り上げる。歌手はフランスの若い実力派を揃え、アスタジー役のカリーヌ・デエが巧みな感情表現と劇的歌唱で傑出する。タラール役シリル・デュボワは優雅な声質のベルカント・テノールで、情感に富む歌唱。アタール役ジャン=セバスティアン・ブも性格表現に秀でたバリトンである。この録音を聴き、サリエーリを凡庸と思うオペラ・ファンはいないだろう。むしろ同時代の誰よりも創意に富む、卓越した作曲家と再認識するのではないか。 (『レコード芸術』音楽之友社、2019年8月号の拙稿より後半部分)
サリエーリ:私的な作品集 Salieri: Strictly Private
[1][2][3] カンタータ《知っているわね、愛するジェルマーナが Tu sai, Germana amata》 [4] カンタービレ、ト長調(Cantabile G-Dur) [5] 前述の祈り《神よ! 我らの喜びを受けたまえ Gott! erhalt‘ zu unsrer Wonne》 [6][7][8]《オフェーリアの健康回復のために Per la ricuperata salute di Ofelia》KV477a [9] 敬虔なアンダンテ、ニ短調(Andante devoto d-Moll) [10][11][12][13] カンタータ《ああ、ニーチェ、ご覧なさい Deh mira, oh Nice》 [14][15][16][17] セレナータ、ヘ長調(Serenata F-Dur) [18][19][20] カンタータ《親切な天よ Il ciel cortese》
ティモ・ヨウコ・ヘルマン指揮ハイデルベルク交響楽団 ディアナ・トムシェ (S), エステル・ヴァレンティン (Ms), ミリアム・ブルクハルト (S), バルバラ・R・グラボウスキ (A), トーマス・ヤーコプス (T), フローリアン・レフラー (T), フィリプ・シェーデル (B), マルクス・レムケ (B) 録音:2019年4月ヴァルドルフ Hänssler Classic HC19079 (CD)
四つのカンタータ《知っているわね、愛するジェルマーナが》《オフェーリアの健康回復のために》《ああ、ニーチェ、ご覧なさい》《親切な天よ》とセレナータなどの世界初録音で構成したアルバム。指揮者ティモ・ヨウコ・ヘルマンはサリエーリ研究で学位を取り、みずから発見したモーツァルトを含む共作カンタータ《オフェーリアの健康回復のために》も管弦楽伴奏化して収録。《神よ!我らの喜びを受けたまえ》[5] は1790年にヨーゼフ2世の結核からの回復を願う祈りの曲。《親切な天よ》[18]~[20] は結婚カンタータで2人の女性が対話を繰り広げ、合唱を交えて華やかに締め括る。ソプラノのディアナ・トムシェら優れたソリストとハイデルベルク交響楽団が知られざるサリエーリの音楽の魅力を引き出し、オーボエ独奏が叙情旋律を奏でる《カンタービレ、ト長調》[4] も秀逸。公的ではなく個人的交際から生み出された作品を選び、出典と背景はブックレット解説に書かれているが、なお不明な点も多い。 (『レコード芸術』音楽之友社、2020年5月号の拙稿を増補)
ガスマン/ああ、恩知らずな愛(オペラ・アリア集) Gassmann/Ah, ingrate amor (Opera Arias)
[1]《スキロスのアキッレ Achille in Sciro》よりアリア [2][3][4]《ウティカのカトーネ Catone in Utica》よりアリア [5]《スキロスのアキッレ Achille in Sciro》よりアリア [6]《ラ・ジンガラ La Zingara》よりアリア [7][8]《職人の恋 L’amore artigiano》よりアリア [9] アリア(不詳) [10]《ライヴァルの女中たち Le serve rivali》よりアリア [11][12][13][14][15]《オペラ・セーリア L’opera seria》よりアリア
アニア・ヴェグリー (S), デヴィッド・スターン指揮 NDR北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
録音:2016年2月, 2017年11月ハノーファ Cpo 555057 (CD)
フローリアン・ガスマンはボヘミアのブリュックス生まれのウィーン宮廷作曲家。イタリア・オペラで人気を博し、サリエーリの師としても再評価が進む。これは六つの歌劇《スキロスのアキッレ》《ウティカのカトーネ》《ラ・ジンガラ》《職人の恋》《ライヴァルの女中たち》《オペラ・セーリア》を中心に15のアリアをセレクトしたアルバムで、音楽はグルックとモーツァルトの中間に位置し、コロラトゥーラの技巧性を際立たせるアリアとテキストの感情を豊かに表現する曲に区分しうる。管弦楽は二管編成。個性に乏しくとも1760年代のヴィーンにあって水準が高く、とりわけ《オペラ・セーリア》と題されたパロディ喜歌劇からの5曲が秀逸。歌っているのはロンドン生まれの若きドイツ系ソプラノ、アニア・ヴェグリー。涼やかな美声と華麗なテクニックを具え、スターン指揮のオケも好サポート。ガスマン作品への入門編として聴かれたい。
(『レコード芸術』音楽之友社、2020年5月号の拙稿を増補)
『サリエーリ 生涯と作品』掲載の簡略ディスコグラフィとその追補です。
註:2018年9月までに発売された主なサリエーリ作品のCD,DVD簡略リスト(海賊盤と自主レーベルを除く。廃盤含む。作品名は略記。
DVDと特記したもの以外はすべてCD)。小品集の曲目詳細を省略し,指揮者もしくは重要ソリストとレーベルのみ付記。
2018年10月以降の新譜を随時赤字で追加します。
【オペラ】
─ 全曲
《アルミーダ》Rousset指揮 Aparté
《ヴェネツィアの市》Ehrhardor指揮 Deutsche Harmonia Mundi
《宿屋の女主人》Luisi指揮 Nuova Era
《見出されたエウローパ》Muti指揮 Erato
《やきもち焼きの学校》Ehrhardor指揮 Deutsche Harmonia Mundi
《ダナオスの娘たち》Gelmetti指揮 EMI;Hofstetter指揮 Oehms;Rousset指揮 Palazzetto Bru Zane
《トロフォーニオの洞窟》Rousset指揮 Ambroisie France
《はじめに音楽,次に言葉》Sanfilippo指揮 Bongiovanni;[選曲集] Harnoncourt指揮 Teldec (序曲と七つの楽曲)
《オラース家》Rousset指揮 Aparté
《タラール》Malgoire指揮 Art Haus Musik [DVD];Rousset指揮 Aparté
《オルムスの王アクスール》Clemencic指揮 Nuova Era
《逆さまの世界》Sardelli指揮 Dynamic
《ファルスタッフ》Rigacci指揮 Cantus Line;Pál指揮 Hungaroton;Veronesi指揮 Chandos;Östmann指揮 Art Haus Musik [DVD];Malgoire指揮 Dynamic
─ インテルメッゾ
《アルレッキナータ》[第三者改作のインテルメッゾ] Catalucci指揮 Bongiovanni
─ オペラやカンタータの序曲
“Salieri, Overtures” Dittrich指揮 Marco Polo / Naxos (《護符》《エラークリトとデモークリト》《ファルマクーザのチェーザレ》《一日成金》《奪われた手桶》《オルムスの王アクスール》《ダナオスの娘たち》《ガマーチェの結婚式でのドン・キショッテ》《トロフォーニオの洞窟》《ムーア人》《アルミーダ》《アンジョリーナ》)
“Salieri, Overture” Frontalini指揮 Venice Classics (《奪われた手桶》《ダナオスの娘たち》《ペルシアの女王パルミーラ》 《ヴェネツィアの市》《トロフォーニオの洞窟》《見出されたエウローパ》序曲ほか)
“Salieri, Symphonies” Bamert指揮 Chandos (《クブライ》《アンジョリーナ》《宿屋の女主人》《ファルスタッフ》序曲と2曲のシンフォニアほか)
“Salieri, Overture & Stage music” Fey指揮 Hänssler Classic (《アルミーダ》《ダリーゾとデルミータ》《オラース家》《カティリーナ》《ダナオスの娘たち》序曲,《パフィオとミッラ》《ダナオスの娘たち》のバレエ音楽)
“Salieri, Overture & Ballet music” Fey指揮 Hänssler Classic (《逆さまの世界》《タラール》《オルムスの王アクスール》《ペルシアの女王パルミーラ》《黒人》《トロフォーニオの洞窟》《アンジョリーナ》序曲,《ナウムブルクの前のフス党》序曲と四つの器楽曲ほか)
“Mozart : Salieri Rivalry? ” Benda指揮 Sony(サリエーリは《はじめに音楽,次に言葉》《ヴェネツィアの市》《ダナオスの娘たち》《オルムスの王アクスール》《ペルシアの女王パルミーラ》の序曲)
ほかに “Mozart / Salieri, Arias & Overture” Boyd指揮 MD&G (サリエーリは《オルムスの王アクスール》と《トロフォーニオの洞窟》序曲とアリア5曲)
《ハプスブルク》《ファルマクーザのチェーザレ》《無言の神託》の序曲 (Herrmann指揮 Hänssler Classic)
《オラース家》と《セミラーミデ》の序曲 (Spada指揮 Asv),《ヴェネツィアの市》序曲(Bonynge指揮 Decca),《オルムスの王アクスール》序曲 (Schippers指揮 Medici Masters),《やきもち焼きの学校》序曲(Grabmayr指揮 Cavalon), 《ダナオスの娘たち》序曲 (Rousset指揮 Erato),《タラール》第2幕の序曲 (Fey指揮 Hänssler Classic), 《トロフォーニオの洞窟》(Hermann編曲, Armonia Ensemble, Genuin)
─ オペラ・アリアなど
“The Salieri Album” Bartoli (Ms) Decca (13曲。《奪われた手桶》《やきもち焼きの学校》《ヴェネツィアの市》《ペルシアの女王パルミーラ》《花文字》《一日成金》《偽の馬鹿娘》《トロフォーニオの洞窟》《アルミーダ》より)
“Arie di bravura” Damrau (S) Erato (サリエーリ7曲。《クブライ》《見出されたエウローパ》《煙突掃除人》《セミラーミデ》《偽の馬鹿娘》より)
“Mozart / Salieri, Arias & Overture” Boyd指揮 MD&G (サリエーリのアリアは5曲。《ファルスタッフ》《オルムスの王アク
スール》《煙突掃除人》《見出されたエウローパ》より)
《再建されたイェルサレム》のための差し替えフィナーレ (Herrmann指揮 Hänssler Classic)
[3曲] Raunig (男性S) Campion (《アルミーダ》《カプアのアンニーバレ》《オルムスの王アクスール》より)
[3曲] Michaels (S) Cedille (《煙突掃除人》《トロフォーニオの洞窟》《花文字》より)
[3曲] Pollak (S) & Ruckgaber (S) Coviello (《やきもち焼きの学校》《トロフォーニオの洞窟》より)
[2曲] Erdmann (S) Deutsche Grammophon (《ダナオスの娘たち》より)
[1曲] Caballé (S) Dynamic (《ダナオスの娘たち》より)
【オラトリオ,宗教曲】
《イエス・キリストの受難》Pelliccia指揮 Fonè;Spering指揮 Capriccio;[選曲集] Turco指揮 Bongiovanni;
[アリア1曲] Scaltriti (Br) L’oiseau Lyre
《冥府のイエス》[選曲集] Turco指揮 Bongiovanni
《最後の審判》Turco指揮 Bongiovanni
《ア・カペッラ様式のミサ曲》Preve指揮 Conviviumvocale
《ミサ曲》(ニ長調, 1788) Harrer指揮 Koch;Wolf指揮 ORF
《レクイエム》(1804) Kröper指揮 Milan Vlček;Foster指揮 Pentatone;Niquet指揮 Château de Versailles
Spectacles
《テ・デウム》(1790) Haselböck指揮 Novalis
《テ・デウム》(1804) Brand指揮 Cavalli Records;Haselböck指揮 Novalis
《テ・デウム》(1819) Turco指揮 Bongiovanni;Grossmann指揮 Koch
《マニフィカート》(ハ長調) Harrer指揮 Koch;Muti指揮 HMK
《ディクシト・ドミヌス》Harrer指揮 Koch
《ユストールム・アニメ》Proulx指揮 Gia Publications;Wolf指揮 ORF
《サルヴェ・レジーナ》(変ロ長調) Muti指揮 HMK
《マーテル・イエズ》Muti指揮 HMK
モテット《圧制者はおののき》Raunig (男性S) Campion
【カンタータ、管弦楽伴奏の世俗声楽曲】
《知っているわね、愛するジェルマーナが》
《ああ、ニーチェ、ご覧なさい》
《親切な天よ》 …… 以上、Herrmann指揮 Hänssler Classic
《神よ! 我らの喜びを受けたまえ》Herrmann指揮 Hänssler Classic
《オフェーリアの健康回復のために》(モーツァルト他との共作)Benda指揮Sony / Herrmann指揮 Hänssler Classic
(共に管弦楽伴奏編曲版)
【歌曲】
歌曲集 “Salieri, Songs” Laki (S) Hungaroton (歌曲21曲と独奏曲4曲)
歌曲集 “Salieri, Lieder” Eerens (S), Müller (Ms) Hänssler Classic (全26曲)
【管弦楽曲・協奏曲】
スペインのラ・フォリアの主題による変奏曲 Spada指揮 ASV;Bamert指揮 Chandos;Frontalini指揮 Venice
Classics;Peskó指揮 Warner;[管楽アンサンブル編曲] Consort Wizards, Crystal Records
シンフォニア《ヴェネツィアーナ》Lukas指揮 Concerto Bayreuth;Grabmayr指揮 Cavalon;Bamert指揮
Chandos;Bánfalvi指揮 Capriccio;Peskó指揮 Warner ほかにオルガン編曲あり (Fono-Ars)
シンフォニア《聖名祝日》Lukas指揮 Concerto Bayreuth ;Bamert指揮 Chandos;Cichridan指揮 Gallo;Peskó
指揮 Warner ほかにオルガン編曲あり (Fono-Ars)
ピアノ協奏曲 (ハ長調/変ロ長調) Ciccolini (pf) Fonit Cetra/Warner;Spada (pf) Asv;Staier (fortepiano) Teldec;
Catena (pf) Da Vinci Classics;[変ロ長調のみ] Badura-Skoda (fortepiano) ERATO;[ハ長調のみ] Naboré (pf) Sheva
オルガン協奏曲 Gansberger (org) Koch;Innocenti (org) La Bottega Discantica
フルートとオーボエのための協奏曲 Hoogendoorn / Borgonovo (fl / ob) Erato;Meylan / Lardrot (fl / ob)
Vanguard Classics;Nicolet / Holliger (fl / ob) Philips;別録音 Grammophon;Dohn / Sous (fl / ob) Vox/Dureco;
Pohl / Winter (fl / ob) Concerto Bayreuth;Milan / Theodore (fl / ob) Chandos;Brown (ob) DECCA;Becker / Lenczès
(fl / ob) MD&G;Costea / Ionoaia (fl / ob) Gallo;Lloyd / Camden (fl / ob) Naxos;Bálint / Lensés (fl / ob) Capriccio
ほかにBrilliant Classicsと自主レーベルあり
ヴァイオリン,オーボエ,チェロのための協奏曲 Bánfalvi (vn) Capriccio;Füri (vn) Archiv-Grammophon
フルート協奏曲 Gallois (fl) Victor
カンタービレ/敬虔なアンダンテ/セレナータ Herrmann指揮 Hänssler Classic
【室内楽・管楽アンサンブル】
室内楽曲集 “Salieri, Overtures, Scherzi, Divertimenti” Pollastri (ob), Quartetto amati Tactus/Brilliant Classics
(序曲編曲3曲,コンチェルティーノ4曲,ディヴェルティメント [フーガ形式の弦楽四重奏によるスケルツォ] 4曲,フーガ1曲)
管楽アンサンブル集 “Salieri, Musica per Harmonie” Ensemble Italiano di Fiati, Tactus/Brilliant Classics (セレ
ナータ3曲,三重奏曲3曲,カッサツィオーネ,五重奏曲ほか)
管楽アンサンブル集 Il Gruppo di Roma, Frequenz/Arts (セレナータ3曲ほか)
管楽アンサンブル集 Consortium Classicum, Orfeo (管楽アンサンブルに再編曲した《アクスール》《トロフォーニオの
洞窟》《パルミーラ》の楽曲集)
《夜の神殿のためのアルモニーア》Christensen (cl) KOCH;Il Gruppo di Roma, Frequenz/Arts;
Ensemble Italiano di Fiati, Tactus/Brilliant Classics;Zurich Wind Octet, Tudor;I Solisti Teatini, The
Orchard;Delmastro指揮 Musica Viva;Armonia Ensemble, Genuin
小さなセレナータ Lukas指揮 Concerto Bayreuth;“Salieri, Musica per Harmonie” Tactus;Il Gruppo di Roma,
FREQUENZ/ARTS;Delmastro指揮Musica Viva;Armonia Ensemble, Genuin ほかにオルガン編曲あり (Fono-Ars)
フルート,オーボエ,ファゴットのための三重奏曲 No.1-3.,Caroli (ob) Stradivarius
【その他】
《ペルシアの女王パルミーラ》の行進曲のチェンバロ用編曲 [4曲] Kósa (fortepiano) Hungaroton
《ペルシアの女王パルミーラ》の行進曲 [器楽編曲2曲] Stadler Trio, Glossa;[同1曲] Swiss Clarinet Players,
Claves
金管アンサンブル1曲 “Antique Brasses” Hyperion
ファンファーレ “Imperial Fanfares” Naxos