日本における受容と上演記録

日本ロッシーニ協会紀要『ロッシニアーナ』に掲載した日本の上演史と受容に関する論考、柳川文雄・編の

年次別上演記録、日本ロッシーニ協会の演奏会記録のコーナーです(PDF)。

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 新規掲載のPDF原稿(2020年より)

  2020年10月 7日 ── 柳川文雄「2019年(令和元年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録」

  2021年 8月14日 ── 柳川文雄「2020年(令和2年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録」

  2022年 8月17日 ── 柳川文雄「2021年(令和3年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録」  

            水谷彰良「日本のロッシーニ作品器楽編曲 補遺」 

           新たな項目「大正期の日本のロッシーニ楽譜」を設けて筆者所蔵楽譜8点、「大正~昭和初期の

           日本のロッシーニ楽譜とその原本の補遺/図書館等の公的所蔵とそのデータベース化の限界

           掲載 

  2024年 1月  2日 ── 柳川文雄「2022年(令和4年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録」  New!

 

 

日本におけるロッシーニ作品の上演記録(柳川文雄・編)

左から、2021年、2020年、2019年、2018年、2017年の上演記録の冒頭頁

 

2022年(令和4年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 New!

(2021年度分の補遺含む。『ロッシニアーナ』第43号 pp.59-67 掲載分をPDFにして掲載) 

2021年(令和3年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第42号 pp.102-106 掲載分をPDFにして掲載) 

2020年(令和2年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録

(『ロッシニアーナ』第41号 pp.148-153 掲載分をPDFにして掲載) 

2019年(令和元年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録

(『ロッシニアーナ』第40号 pp.113-121 掲載分をPDFにして掲載) 

2018年(平成30年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第39号 pp.77-96 掲載分をPDFにして掲載)

2017年(平成29年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第38号 pp.96-100 掲載分をPDFにして掲載)

2016年(平成28年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第37号 pp.69-77 掲載分をPDFにして掲載)

2015年(平成27年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第36号 pp.87-95 掲載分をPDFにして掲載)

2014年(平成26年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第35号 pp.111-119 掲載分をPDFにして掲載)

2013年(平成25年)日本におけるロッシーニ作品の主な上演記録 

(『ロッシニアーナ』第34号 pp.34-40 掲載分をPDFにして掲載) 

 

日本におけるロッシーニ受容の歴史(水谷彰良)

大正~昭和初期の日本のロッシーニ楽譜とその原本

 ─ Una voce poco fa の訳詞と原本。訳題「今の歌声」の起源

日本のロッシーニ作品器楽編曲

 ─ 大正期~昭和初期のさまざまな楽器のための編曲譜 

日本のロッシーニ作品器楽編曲 補遺 New!

 ─ 大正期~昭和初期のさまざまな楽器のための編曲譜(2)

 

 大正期の日本のロッシーニ楽譜  New!

  水谷彰良所蔵楽譜から大正期の印刷譜をデジタル複製して掲載します。

 

 歌劇 セヴィラの理髪師の歌(愛音會、大正6年[1917年]10月発行)

 

 セノオ楽譜セヴィラの理髪師/ロジナの歌(第5版、大正13年[1924年]11月発行)

 

 紅洋樂譜No.8 歌劇 ウイリアム テル 第2版(紅洋樂譜出版社、大正11年[1922年]11月発行)

 

 高橋湘翠 編 ハーモニカ樂譜  幻想曲 セビラの理髪師(共益商社書店、大正11年[1922年]12月発行)

 

 春柳振作 編 ハクビ ハーモニカ樂譜No.3  序曲 ウヰリアムテル(白眉出版社、大正12年[1923年]7月発行、9月再販)

 

 ザ モスト ポピュラー ハーモニカ ピース 1  ゼビラノ理髪師(共益商社書店大正12年[1923年]12月発行) 

 

 ハクビ・ヴァイオリン楽譜No.317  セビラの 理髪師(白眉出版社、大正14年[1925年]2月発行)

 

 宮田東峰 編曲  セヴィラの理髪師 ザ チィピカル ハーモニカピース 50(チィピカル楽譜出版社、大正15年[1926年]8月発行)

 

 

 「大正~昭和初期の日本のロッシーニ楽譜とその原本」への補遺

 水谷彰良「日本のロッシーニ作品器楽編曲 ─ 大正期~昭和初期のさまざまな楽器のための編曲譜」(ロッシニアーナ』第37号より) 

 

 先に『ロッシニアーナ』第35号に発表した拙稿「大正~昭和初期の日本のロッシーニ楽譜とその原本」はテーマを「今の歌声」に絞り、他の楽曲を含めたロッシーニ声楽譜の出版状況に言及しなかった。ここではその補遺として、2016年に公開された「近代日本刊行楽譜総合目録 洋楽編」データベースに筆者の個人蔵を加えて一覧表を作成し、「昭和20年以前に日本で出版されたロッシーニ声楽譜」と題して掲載しておきたい。書誌情報は前記データベースで知りうるので一覧表には所蔵機関の名称のみ記し、筆者所蔵を「水谷彰良」として追加し、データベースにおける注記の転載を※、筆者による注記を註:で示す。

 

 昭和20年以前に日本で出版されたロッシーニ声楽譜(水谷彰良・編)

 

タイトル

シリーズ

編成

出版情報

 歌劇 セヴィラの理髪師の歌

 ロッシニ作曲 

 小林愛雄譯歌

歌劇名曲集 5

独唱、ピアノ

東京:愛音會出版部

大正6年(1917年)初版

註:所蔵館無し。個人蔵のみ(下記)。

 典拠と所蔵:水谷彰良

 註:日本初のロッシーニ声楽譜出版。作曲者の表記はロッシニ。歌詞は日本語のみ。小林愛雄による訳詞冒頭は

   「心の奥に祕めしわが聲(こころのおくに ひめし わがこえ)」。前記拙稿に複製と解説を掲載。

 ロジナの歌 歌劇「セヴィラ

 の理髪師」 ロツシーニ作曲 

 妹尾幸陽訳詞

セノオ楽譜81

メゾソプラノ、ピアノ

東京 : セノオ音楽出版社

大正6年(1917年)初版

註:所蔵2館、他に3版と5版(下記)。

 典拠と所蔵:前記データベース。国立音楽大学附属図書館および民音音楽博物館音楽ライブラリー

 ※歌詞:イタリア語、日本語|タイトルは見出しによる|表紙のタイトル: 歌劇セヴィールの理髪師

 註:後版は、明治学院大学図書館付属日本近代音楽館(大正9年、3版)、水谷彰良(大正13年、5版。表紙タイトル

   は「歌劇セヴィラの理髪師」。妹尾幸陽による訳詞冒頭は「わが胸深く秘めし汝が聲(わがむねふかくひめし

   ながこえ)

 舞ひ歌 歌劇「ウヰリアムテ

 ル」 Rossini作曲

 柴田柴庵訳詞

セノオ楽譜302

独唱、ピアノ

東京 : セノオ音楽出版社

大正13年(1924年)初版

註:所蔵1館。

 典拠と所蔵:前記データベース。同朋学園大学部附属図書館

 ※表紙のタイトル:舞歌|別タイトル: Ballet song : William Tell.|歌劇「ウヰリアムテル」|竹久夢二装画

 信仰 女声三部

 ロシイニ作曲

 乙骨三郎訳歌

シンキヨウ合唱曲第529

 

女声3部、ピアノ

東京 : 新響社

大正14年(1925年)初版

註:所蔵館無し。4版と7版のみ(下記)。

 典拠と所蔵:前記データベース。明治学院大学図書館付属日本近代音楽館(昭和34版)および国立音楽大学附属

  図書館(昭和67版。註:データベースの社名表記はシンキヤウ社)

 ※歌詞:ドイツ語, 日本語|別タイトル: Der Glaube.|初版表示: 大正14|シリーズの別タイトル: Frauenchor  herausgegeben von S. Sakakibara. 註:初版に関する情報は後版による。データベースによる原曲の記載は「Chœeurs religieux. Foi宗教的合唱曲. 信仰」。正しくはTrois choeurs religieux. La Foiである。

 雲雀 同三部合唱

 ロシニ作曲

 二宮龍雄作歌

シンキヨウ楽譜第5026

3部合唱、ピアノ

東京 : 新響社

昭和3年(1928年)初版

註:所蔵1館、4版は個人蔵(下記)。

 典拠と所蔵:茨城県立図書館(昭和3年初版)および水谷彰良(昭和5年、訂正4版。ロッスィーニ作曲。

 二宮龍雄による訳詞冒頭は「緑萌ゆる春の野邊に(みどりもゆるはるののべに)」。原曲は次項で明らかにする)

 

 

図書館等の公的所蔵とそのデータベース化の限界

 

 前記一覧表は、「近代日本刊行楽譜総合目録 洋楽編」データベース(2016年公表 http://rnavi.ndl.go.jp/score/と筆者個人蔵で構成した昭和20年までのロッシーニ声楽譜データである。データベース掲載は4曲、後版を含めた総数は7点で、筆者の個人蔵の最も古い愛音會版「歌劇 セヴィラの理髪師の歌」を加えた総数は5曲10点となる。それゆえデータベースはあくまで「国立国会図書館ならびに全国の図書館等161 機関」の所蔵データ(楽譜所在目録)であり、その書誌データ11,410件(所蔵データ18,666 件)は現存する楽譜のごく一部にすぎないことが判る。

 これは公的機関による所蔵の限界を示すと同時に、データベースに依拠する研究にもさまざまな問題を喚起する。例えば前記一覧表の「信仰 女声三部」は大正14年初版の所蔵館が無く、昭和3年4版と昭和6年7版のみが所蔵される。タイトルを含む初版情報は後版から抽出されたもので、乙骨三郎による訳詞のインチピトも知り得ない[i]。データベースに原曲の記載が無い「雲雀」(昭和3年初版)は、筆者蔵の昭和5年訂正4版から《アルジェのイタリア女》(1813年)第1幕フィナーレのエルヴィーラ、ズルマ、リンドーロの三重唱〈Pria di dividerci da voi(お殿さま、旅立ちの前に)〉の冒頭18小節を同声三重唱としたことが判る。

 日本語歌唱のために改作される声楽曲の場合は原曲と共に訳詞のインチピトも重要で、データベースにそれを欠くのも問題である(前記一覧表には5曲のうち3曲を筆者蔵から掲載した。いうまでもなくオリジナルの原語テキストは一種でも、日本語歌唱のための訳詞は訳者ごとに異なる)

 他にもデータベースを見て気づいた点を記しておこう。データベースはその構成と記録の原則に基づいて作成され、「データの単位は書誌単位」「出版物1に対し書誌(共通書誌)1を作成」「書誌の基礎単位は、単行書単位」とし[ii]、曲集に掲載された楽曲が書誌に反映されない点もその一つである(曲集に関しては単行書としての書誌化にとどまる)。例えば春秋社が昭和4~11年に出版した全90巻+別巻4巻の壮大な楽譜シリーズ『世界音樂全集』には膨大な楽譜が掲載されているが、各巻の掲載曲はデータベース化されない。それゆえ現状のデータベースは、作曲家、作品、楽曲の受容に関する研究に充分な情報を提供してくれないのである。 

 試みにベッリーニ作品を検索すると、次の2点しか所蔵データが出てこない。

 

◎音楽新楽譜 第二百五十八号(大正12年4月号、癸亥盛春号重音歌曲之部。音楽社, 大正12年)所収「卒業生を送るの

 歌」(ベリニイ作曲)

 註:データベース注記によれば《ノルマ》の「Norma. Norma viene」の編曲。所蔵1館(大阪音楽大学音楽博物館)。

 

寿詞 女声三部合唱(ベリーニ原曲、小泉純一編曲[作歌]。共益商社書店、昭和12年。共益ボーカル楽譜 no. 583

 編成は女声3部とピアノ)

 註:データベース注記によれば《ノルマ》の「Norma. Norma viene」の編曲。所蔵2館(国立音楽大学附属図書館、民音音楽博物館

   音楽ライブラリー)。 

 

 ドニゼッティ作品は次の3曲のみ。

 

◎魔笛 歌劇. 聯隊の娘(小林愛雄訳詞、愛音会出版部、大正6年。歌劇名曲集 3 編成は独唱とピアノ)

 ※見出しの表示:猟人の唄 : Zauberflöte (Lied) / 小林愛雄訳詞 ; W. Mozart作曲. 聯隊の娘 : Ciascun lo dice (La figlia del reggimento)

  / 小林愛雄訳詞 ; Donizetti作曲

 註:《魔笛》の「私は鳥刺し」と《連隊の娘》の「みんながご存知」。所蔵1館(国立音楽大学附属図書館)。

 

ひそかに頬をばつたふ涙 歌劇「愛を誘ふ薬」(橘三郎訳詞、セノオ音楽出版社、大正9年。セノオ楽譜190番。

 編成はテノールとピアノ)

 ※歌詞:イタリア語, 日本語|表紙のタイトル: ひそかに頬をつたう涙|別タイトル: Una furtina[sic]lagrima : L' elisir d'amore.|

  竹久夢二装画 

 註:所蔵2館(大阪芸術大学図書館、明治学院大学図書館付属日本近代音楽館)

 

聯隊の娘(今澤文敏編曲、大阪ハーモニカ倶楽部楽譜出版部、大正12年。ハーモニカ独奏名曲vol. 18 ハーモニカ譜)

 ※タイトルは見出しによる|別タイトル: Fille du regiment, part II.|表紙のタイトル: 聯隊の娘 抜粋歌劇 (後編) 

 註:所蔵1館(国立音楽大学附属図書館)。

 

 改めて言うまでもなく、ヒットするのは国立国会図書館ならびに全国の図書館等161 機関に所蔵される単体のみだからこうした結果しか得られないのだ。けれども曲集や教科書に掲載された楽曲を含めれば、明治期から昭和20年までのデータはまったく違った様相を呈するに違いない。なぜならロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティの曲は明治期に唱歌集の楽曲とされ、大正期の学校教科書にも掲載されているからである。

 もちろん将来的には、それらも含めてデータベースが完備されることだろう。だが、それでも足りない。ロッシーニに関して筆者が存在を確認し、個人所有するアイテムが161 機関に所蔵されない現実は変えようがないからである。これは他の作曲家も同じである。それゆえ理想を言えば、161 機関に所蔵されなくても出版目録等に掲載された昭和20年までの国内出版譜は完全データベース化されるべきであり、公的所蔵が確認されないアイテムを蒐集調査する国の機関を設け、個人所蔵を含めた国立のデジタル音楽資料館を作ることが望ましい。

 蒐集の対象は国内の出版楽譜にとどまらない。演奏会のチラシやプログラムはもちろん、国内に現存するすべての音楽資料がその対象である。新たに国費で現物を買い集める必要もない。公的機関に所蔵されないアイテムは国立デジタル図書館が個人所有者から現物を借り受け、デジタル複製化と書誌化をすればそれで済むのだから。

 そもそも図書館の貴重資料が個人研究者の寄贈や遺贈であることも珍しくない。国の補助を受けて図書館が購入する資料とは別に、個人研究者が貴重資料を数多く所蔵しているのは学問の世界の常識である。その散逸を防ぐ手立てが講じられてこなかったのは、不思議としか言いようがない。               (水谷彰良)

 


[i] データベースと異なり、大正15年のエディションが国立音楽大学にあり、同館の「童謡・唱歌索引」によれば歌詞冒頭は「つもるなやみにたえがたくて」である。

[ii]「近代日本刊行楽譜総合目録 洋楽編」データベースの構成と記録の原則、ならびに調査の概要に関する日本音楽学会「日本の音楽資料」調査委員会の文書(平成28 年3 月改訂)より。http://www.musicology-japan.org/ndl_score/ndl_score_wm_outline_H28.pdf

 

 

 

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